映画『真田十勇士』には、圧倒的に「嘘」が足りない。(ネタバレなし感想)
『真田十勇士』(2016・日)
関ヶ原の戦いから10年、徳川家康は天下統一を着々と進めていた。そんな徳川に反旗を翻す豊臣秀頼の勢力は、天下の武将として名をはせる真田幸村(加藤雅也)と彼が率いる真田十勇士を急先鋒に立たせて合戦に臨む。しかし、真田は容姿が良かったばかりに百戦錬磨の武将だと勝手に思われているだけで、本人も平凡な武将であるのを自覚していた。そんな差異に苦悩する彼の前に、抜け忍となった猿飛佐助(中村勘九郎)が現れて実際に猛将へと仕立てあげようと協力を申し出る。佐助は霧隠才蔵(松坂桃李)など10人の仲間を集め、大坂冬の陣・夏の陣に挑む。(シネマトゥデイより)
60点
ひとこと:
良くも悪くも、堤幸彦の集大成。
なんか酷評多いらしいっスね。
でも俺はこの作品、どちらかといえば擁護派です。
そりゃまぁ悪いところを叩けばいくらでも埃が出てくる映画ですが、この大雑把さというか、ドンブリ勘定チックなバカバカしさは嫌いになれないんですよ。
言うなれば和製マイケル・ベイ、あるいはエメリッヒ枠。
重厚な歴史ドラマを期待して行ったらそりゃ怒る人もいるでしょうが、最初から大味バカ映画を楽しむつもりで行けば相応に満足するんじゃないでしょうか。俺のTwitterのタイムラインは20代のオタク女子が圧倒的に多いんですが、検索してみたら概ね好評でしたよ。
『七人の侍』と本作を比べて批判してる方いましたけど、そりゃ『ゼロ・グラビティ』と『アルマゲドン』を比べるようなものであって、はじめっから土俵が別なんですよ。「ゲームが違う」の。
なんせこの映画、キャラが普通に空飛んだりしてんですよ?
そんな映画と黒澤明を比べてどーすんですか。せめて比較対象は『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』でしょう(あれもあれでアレな映画ですが…)。
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◆アンチ堤幸彦にとっては、最高にキツい映画
本作
の監督は、堤幸彦。
(出典:ウィズニュース)
以前も述べましたが、この方、来た仕事を断らない主義らしく、多作かついろいろ批判されることも多い御方です。おふざけとかギャグを入れるのが大好きで、そうした作風が映画という媒体とは非常に相性が悪く、そのへんが悪評の主な理由。
ただ、映画批評界に「堤幸彦はバカにしてOK」って風潮があるのは、俺ははっきり否定していきたいと思うのですよ。
たとえば去年でいえば、『イニシエーション・ラブ』は堤幸彦のある種「下品な」作風が、むしろ作品の魅力に繋がっているという不思議な作品だったし、原発問題を扱った『天空の蜂』は、少なくとも俺は去年のベストワンに選ぶほど高く評価しています↓
専門的な知識を観客に手際よく伝える手腕なんかは堤演出の長所のひとつだし、大勢のスタッフや俳優、関係各所との折衝をそつなくこなせる調整力も、間違いなく映画監督の技量のひとつであって、彼がその点で秀でているのも明白でしょう。だからこそ、この人にはビッグバジェット作品のオファーが多く来るのだろうし。
また、「震災」という日本人にとって重すぎる題材への距離感、問題意識において、少なくとも震災後に(作品とは関係ないところで)醜態を晒し続けている岩井俊二とか園子温より、はるかに現実的でまともな感覚を持った人だと思います。
ただ、こうやって援護しつつも、
今作、「堤」色が相当キッツイのは間違いない。
これまで堤作品をさほど問題なく楽しめていた人ならば苦笑いで済ませられるでしょうが、アンチ堤だった人にとっては過去最高にヤバいの来ちゃったって感じでしょう。悪いことは言わないから、堤苦手だな~って人はスルーするのが吉です。いや、ホントに。
◆前半ゲラゲラ、後半グダグダ
本作は堤幸彦特有の「おふざけ」が全編にわたって炸裂します。
そういう意味で、『真田十勇士』は堤幸彦の集大成的な作品と呼べるかもしれません―良くも悪くも。
まず、オープニングのアレから処理していきますかね。
みんな「!?」って思ったはずです。一発ギャグかと思ったら、なんか結構長いし。
好意的に解釈すれば、「はい、これはバカ映画ですよ~」ってアピールですね。
『バトルシップ』の冒頭の、レーダーからボバーン!→チキンブリトー→海軍入れ の流れと同じ。最初から一定の層の観客を全力で振り落としているので、ある意味潔いのかもしれない。
↑みんな大好きバトルシップの例のアレ
こんな奇策に出た理由を邪推すると、
- 十勇士が集まってからが本番
- ↓
- 集まるまでの流れをスピーディーに処理しなくてはならない
- ↓
- でもそれを普通にやると、どうしてもダイジェスト感が目立つ
- ↓
- か~ら~の?
って事情かもしれないですね。ひょっとすると。
まぁとにかく、ここは観客の度肝を抜くという意味では(良くも悪くも)成功しているといえなくもないし、ぼくは結構笑えました。
(出典:シネマズ)
で、ようやく本編に移るんですが、基本的に俳優陣はオーバーアクトというか、時代劇らしからぬ演技をしているし、くだらんギャグも結構な頻度で入ってきます。前半はほとんどコメディみたいなノリで、繰り返される「おふざけ」には少々飽きがきてしまいます。
ただ、前半はまだいいんですよ。まだ。
問題は後半。クライマックスで一番盛り上がるはずの最終決戦、大阪夏の陣の場面が、いちばん演出的にぶったるんでるんです。
(出典:iLip)
あ、先に言っておくと、キャラが(決め台詞を言いながら)ぽんぽん事務的に死んでいくのはエメリッヒ感あって笑えるので、むしろ評価ポイントです。
ただですねー、肝心の真田幸村が死ぬところだけ異常に演出がクドいんですよ。
「ヒーローが変身するときに敵はなぜ待ってくれているのか問題」ってあるけど、あれをそのままやらかしちゃってます。
なんか血まみれの幸村が(結構長く)喋ってる間、徳川は撃ち方止めてボーっとしてやがるんですよ。いやあの、いくらリアリティ無視といったって、これリアリティ云々以前にどう考えても絶対盛り下がるじゃないですか。もう萎え萎えですよ。
舞台だったらいいんですよ。こういう演出でも、最初から観客に「そういうもの」として受け入れる体勢ができているし、俳優との距離感が映画よりはるかに近いから。
でもこれ映画なんですよ。大画面なんすよ。劇場のでかいスクリーンで、壮大な背景をバックに、なんかすごい場違いな愁嘆場が演じられてるんですよ。観ててすげー気恥ずかしいというか、居心地悪かったんですけど、あの、俺どうしたらいいですかね。
むしろ幸村の死に様こそ、あっさり描くべきだったんじゃないかなぁ。そこまで居直ってくれれば「お、そうくる!?」って、少なくともビックリはしたと思うんですけどね。
もともと3時間の舞台作品を2時間ちょいに縮めたおかげで、キャラ紹介がだいぶおざなりになっちゃってるのはもう仕方ないんだから、ここはスピード勝負に徹すべきだったと思う。
◆あんまり「嘘」をついてくれない
本作には、冒頭で示される「嘘も貫き通せば真実になる」というテーマがあるんですけど、それが途中からぼやけてしまっているのが非常に残念です。
言ってしまえばこの映画、
あんまり「嘘」をついてくれないんですよ。
この映画における「嘘」って、
・真田幸村が名将のふりをしていること
・裏切り者がいたこと
・ラストの逆転劇
くらいじゃない?
あんだけ中村勘九郎がクドいくらい「嘘、おもしれぇじゃねーかー」って叫ぶんだから、もっといっぱい「嘘」見せて欲しかったですよ。「計略」見せて欲しかったですよ。まともに戦って勝てるわけない相手なんだから、そこをどう膨らませるかがこの物語の面白さなんじゃないの?
(出典:シネマズ)
あ、ラストはなんか「見たことのない大逆転」みたいな宣伝してますけど、普通に予想の範囲内、そりゃそうだよねって感じで、別に驚きとかはないです。
そもそも作り手側も「逆転」の仕掛け自体はあまり強調してないっていうか、描写もあっさり目で済ませてるしね。
あと忘れちゃいけない、エンドロールの悪ふざけがありましたな。
あれは激怒している人と「あそこだけは面白かった」って人に分かれてて笑ったんですが、ちょっと作品に対する「逃げ」の姿勢を感じて、俺はあんまり好きじゃないです。
むしろ「あれ」を含めて本編のオチにしちゃえばよかったのに。そんくらい徹底的にふざけてくれれば、もう何も言いませんよ。
◆アトラクションとして良かったところも確実にある
とまぁ、いろいろ言いましたが、はっきり「良かった」って思ったところもあります。
まず俳優陣。アクションはCGに頼らず、ちゃんと体張って頑張ってます。
個人的にはにっかり青江(刀剣乱舞)みたいな出立ちで現れた松坂桃李がツボだったんですが、中村勘九郎ほか旬の若手たちがキャッキャウフフと仲良く喧嘩してる姿も、なんだか微笑ましくて(*´∀`)ホッコリしながら観れましたよ(みんな俺より年上なんだけどな…)。
幸村役の加藤雅也も、意外なくらいサマになっていて格好良かったですな。
参考:松坂桃李(上)とにっかり青江(下)
また、大予算をかけただけあって、合戦シーンなどは確かに迫力があり、こういうスケールの大きい画をスクリーンで見る楽しさ、アトラクションとしての楽しさというのは確かにあります。
(出典:iLip)
あ、音楽も良かったなーって思います。
斬り合いのシーンでジャズ使うのも不思議な感覚を味わえたし、メイン・テーマはなんだかんだでワクワクします。
エンドロールでかかるユーミンの主題歌のおかげで、ここだけはなんか壮大な歴史ロマンを観た気分になるのはズルいっすね。ユーミン最高。何が最高なのかはよくわからんけど。
◆まとめ
全体の感想としては、もったいないなーって印象ッスね。
もう少しブラッシュアップして「バカ」に徹して「嘘」を貫き通してくれれば、和製バトルシップ的な愛すべき作品になれたかもしれないのに…なんてのはいささか褒めすぎですかね。
(出典:シネマズ)
最初に述べたように、堤幸彦に抵抗のない人であれば「楽しかったね~」で終わるし、嫌いな人は「堤ブッ○す」レベルに呪詛が溜まる可能性が高いので、地雷を踏むつもりで観に行くのはマジでお薦めしません。
それに使うお金があったら、素直に『君の名は。』とか『ハドソン川の奇跡』とか観に行きましょう。いやホント、悪いことは言わないので。
ちなみに舞台版↓の評判は、すこぶる良いらしいです。ちょっと興味が沸きました。