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【アニメ】『プラトニックチェーン』は未来の夢を見るか?

 『プラトニックチェーン』は03年に放送されたアニメ作品。原作は渡辺浩弐、一話あたり3~4分程度のショートショート×全24話で構成されている。作画はフル3DCG、登場人物の動きにモーションキャプチャを採用するなど、一風変わった試みが行われた実験作でもある。   

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 渡辺浩弐といえばかつては「大竹まことのただいま!PCランド」出演のお兄さんとして知られ、現在ではカフェを経営したり声優とトークしたりニコニコ生放送で活躍するなど、メディアを渡り歩く自遊人というイメージがあるが、彼の本分は作家業である。とりわけSF要素の強いショートショートの書き手として定評があり、特にファミ通に連載されたこのアニメの原作や、『ゲームキッズ』シリーズなどは今なお名高い。(それにしても、老けないお方である) 

 

 本作の構成にショートショートの公式をそのまま持ってきたのはこの場合正しい判断といって良いだろう。思わずニヤリとするオチの連続は中だるみを防ぎ、全24話をぶっ続けて観てもまったく疲れを感じさせない。意味深なタイトルを各話のラストに持ってくる演出も流行を先取りしていて心憎い。 

 

 舞台はちょっとだけ近未来の渋谷だが、11年前に放映されたこのアニメで描かれる「近未来」が、現在(2014年)においてじわりじわりと現実化されつつあることに驚かされる。この世界ではケータイですべてをまかなえ、各人の行動は膨大なデータベースを作成し、あらゆる行動が記録され、そしてそんな社会の中で人々は時折ヒヤヒヤしつつも、それなりに楽しく、かつ素晴らしく便利な生活を謳歌している。 

 

 更新され続ける「いま」と、複雑に絡み続ける「つながり」は、SNSTwitterの隆盛を見ても明らかなように、今やネット空間の巨大なファクターだ。あらゆる人間が情報を発信し、あるいは受信し、そして新たな「つながり」が「いま」リアルタイムで生まれては消えていく。やがて人々は重苦しいPCを捨て、軽々としたスマホiPadを持ち歩くようになった。渡辺浩弐の描いた近未来像は、相当的確なものであったと感嘆せざるを得ない(なお、彼は00年に著書『ひらきこもりのすすめ』において、現在の情報社会を非常に的確に予見している)。

 

 全体として笑えるオチが多く、ユーモラスに描かれてはいるが、この中で描かれる、ケータイサイト「プラトニックチェーン」を中心とした世界は、実際のところかなり怖い。このヤバさは、物語が後半へ進むにつれ、しだいに強化されていく。

 そんなわけで、このアニメは後半のほうが面白い。そのままホラーとしても通用しそうな怖い話や感動的な話など、設定を使いこなすことから一歩踏み出した、多様なタイプの物語が展開される。ひとつの素材から次々と奇想天外なストーリーを生み出す創造力は大したものでだ。 

 

 ちなみに本作は09年、財団法人情報通信学会において取り上げられたこともある。前編のレビューでも書いたが、やはり現在、プラトニックチェーン」が描いた「未来」は明らかに現実のものとなりつつあるのだ。そうした意味では、本書は情報化社会の発展期にぽんと提出された未来絵巻としての史料的価値をも持つ。 

 

 観る者にややハードルを強いるアニメであることは否定しないが、いま観てもまったく色褪せずに楽しめる、否、今観るからこそ楽しめる貴重な作品でもある。「過去」に作られたこのアニメの描いた「未来」は、「いま」我々が夢見る「未来」の姿だけでなく、「いま」それ自体をも内包しているのだ