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ノラブログ。               

 
 
 
 
 

【書評】もしも夏コミで殺人が起きたら-小森健太朗『コミケ殺人事件』

書評

 

 夏です。海です。スイカです。
 でもそんな事とは微塵も関係なく、我々はコミケです。

 

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 てなわけで、時期ネタってことで今回紹介する本はこちら。

 

コミケ殺人事件 (ハルキ文庫)

コミケ殺人事件 (ハルキ文庫)

 

 

 タイトル通り、真夏のコミケを舞台にしたミステリ。時代設定が91年(コミケ40)なので、会場は晴海である。冒頭に挟み込まれた、今は亡き東京国際見本市会場の地図は、その世代の人にとっては感慨深いものだろう。

 登場する同人作家たちがワープロを使っていたり、連絡手段が手紙や自宅電話だったりするあたり時代を感じさせるが、コミケの風景は基本的に今とさして変わらない。変化といえばこの時代よりも参加者が増えたことと、コスプレの規制が厳しくなったことか(最近はまた緩和傾向にはあるけれども)。

 あらすじを要約すると、とある美少女戦隊ものラノベの結末予想アンソロジーを制作した同人サークルの面子が、コミケ当日の動乱の中で次々に殺されていくというお話。たかだか数時間の間に会場内でバタバタと人が死んでいくので、スタッフの混乱と悲鳴が聞こえてくるかのようで、フィクションながら彼らには同情を禁じ得ない。

 作中に同人誌(残念ながら漫画ではなく小説、でもちゃんとイラスト付き)が挿入されたり、実際の事件と同人誌の内容が交互に入り乱れるメタ構造を取り入れていたりと、読者の予想の斜め上を行くことに定評のある小森健太朗だけあって、なかなかに構成は凝っている。 頼まれたスケブがアリバイの証明になったり、大混雑の中の移動にかかる時間がキーポイントになったりと、コミケならではのネタも多く取り入れられており、工夫が感じられる。

 もっとも、本格ミステリとしての要素、例えばトリックの鮮やかさとか、犯人の動機の作り込みに関しては、チョイスした題材を上手く消化しているが、それ以上でも以下でも無い。そこに過度の期待を持つと、少々肩すかしを食らわされるだろう。お祭り小説なのだから、変に肩肘張らずに楽しく読むと良い。

  それよりも本作の見所は、その奇抜かつ軽妙な構成にあるといえる。冒頭のプロローグからいきなり中盤を省いて事件後の事情聴取を持ってくる意外性と間の良さ、同人誌と本編が同時進行していくという独特の全体構成、終盤で二転三転する、「毒入りチョコレート事件」を彷彿とさせる論理の応酬と、読者を喰ったようなお茶目なラスト。幾重にも練られた仕掛けが読む者を楽しませてくれる、サービス満点の作品といえよう。

 以前、Twitterで小森先生にも直接リプを送ったことがあるが、いつかぜひ、現代のコミケを舞台にしたリメイク作品を書いて欲しいと思う。舞台を東京ビッグサイトに移し、ケータイやネットを駆使した21世紀の祭典を題材にした長編ミステリを読んでみたい。そう考えている読者は、おそらく僕だけではあるまい。

 


 作中に登場するラノベ『ルナティック・ドリーム』のファンブックというか、本書のサブテキスト的な本。興味のある方はどうぞ。 

ルナティック・ドリーム―コミケ殺人事件外伝

ルナティック・ドリーム―コミケ殺人事件外伝