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ノラブログ。               

 
 
 
 
 

『蛇イチゴ』ーシニカルな笑いと哀しみがこだまする、家族の「崩壊」物語

映画

 

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 『ゆれる』『ディア・ドクター』などで高く評価され、すでにして巨匠の片鱗を見せる西川美和の監督デビュー作。平凡な一家が一夜にして崩壊していく様をコミカルに描く。

 

 働き者の父、しっかり者の母、生真面目な娘、ボケているけど明るい祖父。どこにでもありそうな家族は、祖父の死、そして突如姿を現した勘当息子の登場をきっかけにメッキが剥がれ落ち、ドミノ倒しのようになし崩し的にぶっ壊れていく。


 題材自体、救いようがなく破滅的であるし、どう考えても笑えない話なのだが、時折挿入されるギャグや個性的なキャラクター、テンポの良い脚本のおかげで、奇妙にシニカルさを纏った脱力グルーヴ感を堪能できる。

 

 敵なのか味方なのか分からない兄(宮迫博之)の存在感が良い。真面目一辺倒の妹(つみきみほ)との対比が彼の立ち位置のおかしさをより際立てているのだが、兄が登場する以前の序盤からこの関係性がすでに示唆され、一本の軸となってラストまで突き抜けているのが見事。余計な要素を一切排除し、「画」だけでこの映画そのものを総括してしまうラストシーンは素晴らしい。
 それにしても宮迫がここまで良い俳優だとは。『ゆれる』の香川照之、『ディア・ドクター』の笑福亭鶴瓶といい、この監督は役者の持ち味を生かすのが上手い。

 

 のちの作品と比較すると、デビュー作ということもあってか、彼女の作品の中ではもっともテーマ性がはっきり出ている、言い換えればテーマをもっとも直接的に提示しており、その意味では結末をぼかし気味な他作品より分かりやすい。


 この作品を撮った当時、西川美和は28歳。とてもじゃないが信じられない。音楽や演出など随所に感じられるセンスの良さ、役者の魅力を生かしきる手腕、そして鮮烈なラストシーンに代表される驚くべき完成度の高さ、どれをとっても一級品。今の日本でここまでの作品を撮れる監督がどれだけいるのだろう。

 

 個人的に、彼女の作品の中では本作が一番のお気に入りである。

 決して明るい話じゃないのに、観終わったあとに不思議な高揚感と爽快感を感じられる。そんな、いろんな意味で奇妙にねじれたこの映画が、僕はたまらなく好きだ。