ノラブログ。               

 
 
 
 
 

【雑記】ネットスラング・ジェネレーションズ

 

 彼女と電話で話していて(彼女いるんか!?というツッコミは受け付けない)、俺が向こうにとって不都合なこと(ごめんその日は仕事だから遊べない、とか)を言うと、彼女は抑揚をつけずに「か・な・し・み~」と言う。形容詞(かなしい)ではなく名詞、しかも一文字ごとにはっきり発音するのが妙に可笑しい。

 

 このやりとりは愉快であるが、しかし使いどころが難しい。

 「NORAくん!なんだねこの会議資料は!?数字が間違いだらけじゃないか!」と課長が火を吹いているときに「か・な・し・み~」と返事なんかした日には俺の職場は一瞬にしてダンテズ・ピークと化す。葬儀にて喪主として挨拶し、最後を「か・な・し・み~」と結ぼうものなら、居合わせた坊主に五回は往復ビンタを食らい親族には身体中の穴という穴にありったけの線香を詰め込まれたうえに着火され、棺桶と一緒に火葬炉に送り込まれるに違いない。

 


 なんにせよ言葉の表現というのは気を使うものだ。とりわけ時代性というのは重要だなと最近とみに思い始めた。なんせ、気付いたらすっかり意味が変わっていたり、言葉そのものが古びていたりするのだから。

 


 ツイッターなどで、2ch華やかりし頃のネットスラング(「~だお」とか「ギガワロスwww」とか)をいまだに使い続けている人に出くわすと、何やらこっ恥ずかしい気持ちになる人は多いだろう。時事ネタも風化が早い。2015年6月現在になってSTAP細胞とか佐村河内とか野々村議員のネタを持ちだしたところで大衆は白けてしまう。
 「チョベリバ」程度まで古典化されていれば、受け手も時代錯誤行為そのものをギャグとして受容することができるが、中途半端に「流行の最先端」感の残り香が漂っているぶん、この手のスラングや流行りネタを安易に持ち出すのはリスクが高いといえよう。そう言ってる自分がたまに使っていたりするんで説得力がないのだが。

 

 流行遅れのネットスラングを使うことが他の一般的な「死語」に増して気恥ずかしさや居心地の悪さを誘発するのは、かつてアングラな存在であったものが大衆性を獲得するやいなや、それを大っぴらに、高らかに誇示しようとする行為の滑稽さゆえである。

 

 かつて【インターネット=2chみたいに――実際の人口比でいえばそうでなくとも、少なくとも世間の認識的には――思われていた時代があった。具体的にいえばmixiがライトなネットユーザーの一大勢力として君臨する手前、ゼロ年代の中頃あたりだ。
 懐古趣味と揶揄されるのを承知でいえば、当時はニュー速VIP板を中心に、「才能の無駄使い」と称されるギャグセンスや技術を持った人たちが確かにあの場所に集っていた。のちにpixivやニコ動、Twitterなどあらゆる場所に分散されていった才能が2ちゃんねるという混沌に集結し、各々好き勝手に暴れていたのだ。
 


 電車男の流行などによって2ちゃんねる的意匠はあっという間に大衆に開放され、アングラはアングラでなくなった。職人と呼ばれた人々の才能の受け皿となるSNSやサイトも作られ、巨大掲示板はゆるやかに衰退していった。
 その過程で、かつて「仲間うちだけで通じていた隠語」であった2ch語ネットスラングは、その珍奇さゆえに新規ネット民たちに面白がられ、おもちゃにされつつ受容され、いびつなかたちで生き残ることになった―というのが僕の見立てである。

 なんならTwitterを覗いてみれば良い。明らかに、かつての掲示板の書き込みとは違うテンション、違う文脈、違う意匠で2ch語を書き込んでいる若きアカウントを目にすることができる(この場合の「若き」ってのはネット歴のことであり実年齢ではない。念のため)。

 

 

 かつてアングラな世界でメジャーであったものを、まるで自分が発見したかのように新鮮な驚きをもって、はしゃぎながら使いこなす行為。それは非難されるものではないが、かといって称賛もされまい。2015年現在になってなお、無邪気に「だおwwwwww」と叫び続けるアカウントを見ていると、まるで兄貴の部屋からアダルトビデオを持ちだして友達に自慢げに見せつける中学生みたいなアイタタ感を抱くのは、ぼくも老いたという証左だろうか。

 

 もっとも、ぼくより前からネットに慣れ親しんでいた人なんかそれこそ大勢いるわけで、そういう人たちにとってはこの文章も「あぁまたパソ通も知らない古参気取りが何か言ってやがるぜ」的な代物かもしれない。ま、そう言われたら反論のしようがない。そして遠くない将来、「Twitter全盛期を知らないニワカ」や「ニコニコ全盛期を知らないニワカ」とレッテルを貼られる世代が出現し、このネガティブな認識は再生産されていくのだろう。

 

 

 

「結局、言葉なんて時代とともに移り変わるものってことね」

「それな」

「その『それな』もネットスラングでしょ?」

「せやな」

「日本語で話しなさいよ」

「サーセン」

「か・な・し・み〜」