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北野武映画としては不合格、ビートたけし映画としては合格―『龍三と七人の子分たち』

 

 『龍三と七人の子分たち』(2015・日)

 

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かつてヤクザの組長を務めた龍三(藤竜也)は隠居生活を過ごしているが、息子一家には疎んじられ、窮屈な生活を送っている。ある日、オレオレ詐欺の電話がかかってきたことを発端に、かつての自分のシマで悪を働く「京浜連合」なる組織の存在を知った龍三は、昔のヤクザ仲間たちを呼び寄せ、京浜連合との抗争を開始する。

 

 

 

 

 

51点

 

 

ひとこと:ジジババ向け。

 

 

 

 「世界のキタノ」こと北野武監督の最新作ですが、実質的にはビートたけし監督作」といったほうが正確かもしれません。というのも、北野映画の特徴である突発的で陰惨な暴力描写とか印象的な色使い(キタノブルー)みたいなのはこの作品ではすっかり影を潜めて、何も知らない観客にも受け入れられやすい大衆映画として仕上げているからです。

 

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 『TAKESHI’S』(2005)『監督・ばんざい!』(2007)『アキレスと亀』(2008)と、しばらく難解な作風を続けたのち、『アウトレイジ』(2010)の成功以降、開き直ったかのようにエンタメ路線を突っ走っている北野監督ですが、ある種、その極地といえるのが本作かもしれません。

 

 宣伝とか観ると「ジジイだけどカッコイイ」みたいなムードを醸しだしてますが、これがびっくりするくらい全然格好良くなくて。これだけの名だたる名優たちが、揃いも揃ってしょーもないギャグをかましている光景はある意味貴重というか、『バーン・アフター・リーディング』なみの俳優無駄遣いというか。
 途中、仲間のひとりが死んじゃって敵討ちだ!って展開になるので「おお、ここからジジイどもが本気出すのね」ってワクワクしてたら、さらに輪をかけてくだらないブラックジョークの応酬が始まるあたり、完全に確信犯(誤用)ですねこれ。

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 ターゲットとしては高齢者層狙いの映画で、実際、劇場内は高齢のお客さんが多かったですが、みんな声をあげてゲラゲラ笑っていて、良い雰囲気でした。僕も結構笑っちゃったんですが、いちばん好きなのは居酒屋でみんなの過去の罪を点数化するシーンかなぁ(ぐるぐる回るカメラワークと、淡々と帳簿を記入していく店主が最高)。あと、中尾彬の扱いが本当に酷くて後半はずっとニヤニヤしてました。

 

 そんなわけで本作、全体的に「ゆるい」です。
 たとえば構成とかあきらかにユルユルで、もっとタイトにまとめるとか、スタイリッシュに仕上げることはいくらでもできたはずなんですが、あからさまに無駄なシーンとか無駄な「間」とかこの人必要?って脇役がそこかしこに点在しているので、まぁ明らかにテンポは悪い。結構笑ったわりに点数が低めなのはそのせいで、序盤から結構ダレるんですよね。敵も弱すぎて話にならないし、最後のカーチェイスも(良くも悪くも)「ひどい」し。やはりここは90分くらいにピチッとまとめて、最後は全キャラ総動員での大立ち回りが観たかったところ。

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 ただ、前述したように高齢者向けなんで、このグダグダゆるゆるぶりも丁度良いのかなーって気もするんですな。北野武映画をビートたけしがパロると丁度こんな感じになるのかも。『みんな~やってるか!』『監督・ばんざい!』という(本人も認める)失敗作を経て、ようやく「ビートたけし」はスクリーンという舞台で日の目を見たのかもしれませんね。

 

 というわけで、出演者の豪華さに惹かれて北野武映画を期待するとかなり肩透かしを食らうとは思われますが、ビートたけし映画」と割り切って鑑賞するぶんには必要にして充分な出来栄えじゃないでしょうか。爺ちゃん婆ちゃん含めて家族みんなで鑑賞すると、なかなか充実した時間が過ごせるかもしれませんよ。