【新作映画レビュー】オールスター俳優と豪華セットで送るシンメトリー映画『マスカレード・ホテル』感想(ネタバレなし)
【2019年:6本目】
マスカレード・ホテル
82点
ひとこと:
鈴木雅之監督作品ではじめて良いと思った。
東野圭吾原作。キムタク主演。
だが、その前に本作、鈴木雅之監督作品である。
この鈴木さん、もともとテレビドラマの演出で有名な方ですが、以下のフィルモグラフィー見ても、正直「(´・ω・`)・・・・・・。」ってなってしまう類の監督さんなのはご理解いただけるのではないかと思う。
鈴木監督の演出はわかりやすい特徴があって、それはシンメトリーを多用すること。とにかく画面の真ん中とか両端にヒトやモノを置いて左右対称の構図を作りたがるの、この人。
この特徴がいちばんよく現れてると思うのが、『古畑任三郎』3rdシーズン第2話の『その男、多忙につき』というエピソード(ゲストの犯人役は真田広之)。
冒頭から、事件の舞台となるホテル(今回の映画とも通じるね)の遠景→ロビーの風景→掲げられたロゴマーク→部屋のドア→電話が鳴り続ける部屋の中の風景→電話をとる真田広之、という流れをひたすら左右対称構図でスピーディーに重ねていく。
続いてエレベーターの中で会話する2人(この構図も今回の映画にあったね)→部屋のソファに向かい合う2人→事務所にドアを開けて入ってくる真田広之→自分のデスクで拳銃を取り出す真田広之、とにかくあらゆる構図がシンメトリー、シンメトリー、シンメトリー。
まぁちょっとしつこいかなとも思うけど、実はこの話はホテルのロゴマークとか建物の構造が解決のキーポイントになるので、そういう意味ではあからさまに目に見えている手がかりを演出で目くらましする効果も生んでいて、脚本面の危ういところを演出で上手いところ補ってる例なんじゃないかなと思います。
ただまあ、同じシンメトリー大好き人間でも、ウェス・アンダーソンほど偏執的ってわけでもなく、あくまでドラマ的、テレビ的な、ポップで軽い感じの絵作りをする人ではある。なので基本、映画とはあんまり相性良くない。これまでの監督作がどうにも画面から安っぽさから抜けられない出来の作品ばかりだったのは、そのへん関係してんじゃないかなあと思う。
ただ今回の映画に限っていえば、そういう、これまでうまくいっていなかった鈴木演出が、はじめてプラス効果を生んでいる作品だと思いました。
すなわち、良かった。ちゃんと「映画として」面白かった。
まず第一に、貧乏臭くないのがいいっスね。
本作、お話としては、東京都心の一等地にある名門ホテルにキムタク演じる捜査官がホテルマンに化けて潜入して、紛れ込んでいる殺人犯を見つけるという筋書きですね。俺は原作既読なんですが、この小説、ミステリとはいうもののお仕事小説的な要素が強くて、ホテルマンがいかに自分たちの仕事にプライドをもっているか、そういうプロ意識の描写にかなり分量が割かれている。
つまり、ある意味では本作、キムタクも長澤まさみも犯人もあくまで駒に過ぎなくて、ホテルそのものが主人公ともいえるわけです。ということは、俳優以上に「ホテル」という空間の描写がすごく重要になってくる。セットの作りとか撮り方がショボかったら、もう一気に目も当てられない作品になってしまう。
豪華ホテルを舞台に大物俳優勢揃い映画、っていうと三谷幸喜の『THE 有頂天ホテル』が思い浮かびますが、あのホテルとか悪い例だと思います。
こちらも本作と同じくロビーの風景から映画が始まるんだけど、もうひどいの。いかにも「セットでーす!」「この部分しか作ってないでーす!」って感じの画になっちゃって、もっのすげえ貧乏臭いの。セット自体は種田陽平さんという一流の方が作っているのに、撮り方、切り取り方が悪いせいで目も当てられない。客室のセットとかも明らかに非現実的だし、あのホテルが実在してるようにはとても見えない。
↑有頂天ホテルの「ホテル」。
それと比較すると本作のホテルは、すごくいい。
ロビーのセットは日本最大のスタジオを使用して作ったらしくて、もちろんその出来もいいんだけど、何より、このロビーの外、つまり玄関ドアとか上の階とか、「外の世界」がちゃんと感じられる撮り方をしているのがいい。鈴木演出お得意のシンメトリー構図が豪華な美術と相まって、意外なほどに画面がリッチに収まってる。客室や廊下、エレベーター、バックヤードの描写も手抜かりがなくて、ちゃんとこのホテルが実在して、ここで働く人たちも本当にいるんだという映画的な説得力、スケール感を与え、ホテルに「生命」を吹き込んでいる。美術さんも撮影監督も、そしてそれらをまとめた監督も、皆さんすごくいい仕事したと思います。
あと、鈴木演出が効果的に使われてる場面、結構いっぱいありました。
例えば、この映画の2人の主人公は、最初はお互い反発しているんだけど次第に仲良くなって、最後は(異性同士だけど)一種のバディものみたいになるんだけど、面白いのは、2人はそれぞれ「人を疑う職業」(刑事)と「人を信じる職業」(ホテルマン)という、まったく対照的な職に就いていながら、それぞれ自分の仕事にたいするプロ意識という一点においては共通している、そこをとっかかりに仲が深まっていくと、こういう構図なわけですね。つまり主人公2人そのものがシンメトリーな関係にある。原作からして、実は鈴木雅之監督の演出にぴったりな構図を内包しているわけです。
なので、たとえばオープニングタイトルが出るタイミングは、お互い背中合わせの方向を向いた2人の構図から始まるわけ。この時点では2人はまだ心が繋がってませんよ、と。その後、クロークやエレベーター、屋上など、2人が画面の真ん中あるいは両端に収まる、「向かい合う」「横に並ぶ」構図が頻繁に登場する。そういう過程を経て2人の信頼、絆が深まっていく。
そりゃ、別にテクニック的に上手いとかは言わない。ベタっちゃあベタですよ。でも、たしかにこの原作の映画化にこの監督を起用したのはいいチョイスだなと思わせる、そのくらいには十分マッチしているし、演出が原作の魅力をちゃんと捉えて映画的なハッタリとして昇華できていると思いました。
まぁ、とはいうものの、やっぱりテレビ的な香りというのはちょっと残っていて、思いっきりリアリティ欠いてて興醒めな部分とか、なくはないんですけどね。
たとえば中盤の生瀬勝久のエピソード。あれ、生瀬勝久演じる栗原という男が新田刑事(キムタク)に真相を吐露するのは、原作では応接室なんですよ。でもこっちだとロビーで他の客とかが見守る中でベラベラ喋り始めるわけ。いや不自然だろ。とりあえずそいつを別の場所に連れて行けよ、一流のホテルマンならさあ。まわりの客もなに神妙な顔して聞いてんのよ。ボーッと突っ立っちゃって。
あと、これ全般的に気になったんだけど、ホテルマン同士の会話、いちいち声張り上げすぎじゃないすかね?いやそれ客に聞こえてるけど大丈夫?って妙な心配しちゃいました。こういうあたり、やっぱり映画的というよりかはテレビ的だなあという感じがする。残念。もったいない。
あ、あと一点だけ、どうしてもミステリ的に看過できない演出があったので、それだけは指摘しておきます。
ここだけはネタバレになるのでfusetterで↓
『マスカレード・ホテル』でどうしても看過できない演出が一箇所あって、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ https://t.co/fHssBSmi1B
— NORA@2/24東ニ09a (@nora912) February 10, 2019
あと残念といえば、エピローグが明らかに長すぎてなあ…
まだ登場人物の会話が続いてるうちからエンドロールのテロップが出始める、これは別にいい。でもそこから始まる「お疲れ様でした」的会話がけっこう長い。で、すべてが終わってキムタクがホテルから出ていく。ホテルの玄関が(やはりシンメトリーで)大写しになる。お、これで終わりか。なかなかいいじゃん、と思ってるとまだまだ続く。で、そこでちょっとびっくりするヘンテコ演出があって、その後さらにダラダラやったあとで、ようやく乾杯して終わり、と。
なげえよ。
キムタクがホテル出ていくところでビシッ!と終わりでいいじゃん。それで締まるじゃん。なんで引き伸ばすのよー。もー。
いや、一応原作もラストシーンは乾杯で終わるんだけど、あれ、終わり際にやたらダサくなるという東野圭吾の悪い癖のひとつだからそこは踏襲しなくていい(『容疑者Xの献身』の原作でのガリレオの最後のセリフとかな)。その前に出てくる「はぁ?」な演出も謎だったしなあ…ここもまた妙にダサい。なんか、最後に至って急に鈴木演出のテレビ的な悪さが一気に吹き出しちゃった感じですね。ちなみにエンドロールで変なJ-POP流さなかったのは評価ポイントです。
あ、いまさらだけどキャストは良かったですね。オールスター映画ならではのビッグネーム揃いだけど、概ねハマっていたと思います。
キムタクはいつも通り。『検察側の罪人』ではちょっと嫌な人の役に挑戦してたけど、今回は東野圭吾も「原作からしてキムタクイメージして書いてました」と公言してるくらいキムタクofキムタクなキャラなんで、まあ当然というかハマり役。長澤まさみも安定して良い。
でも本作のMVPは、なんといっても小日向文世。あの、ヘラヘラしてて愛想は良いんだけど目がまったく笑ってないというか、信用出来ない感じ。敵か味方か容易には判別不能な、なんとも言えぬ居心地の悪さ。それでいていざ動き始めると超有能。この能勢刑事ってキャラは原作からしてこういう底の知れない奴なんですが、いやマジで体現してました。素晴らしかったです。(◯◯◯城のところの「ニヤリ」とか最高)
てなわけで、結論としてはいろいろ文句つけつつも、かなり楽しかったです。
原作既読派としても満足、東野圭吾の映像化作品として見ても、かなり上位に位置する作品じゃないでしょうか。いかにもテレビ的な娯楽大作であり、実際そのとおりではあるけど、舐めてかかったら意外と拾い物という嬉しい驚きに出会えた作品でした。オススメです。
(2019.2.1鑑賞)