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【書評】石黒正数『Present for me』は3倍の値でも買う価値がある。

 

Present for me 石黒正数短編集 (ヤングキングコミックス)

Present for me 石黒正数短編集 (ヤングキングコミックス)

 

  『それでも町は廻っている』でブレイクした石黒正数。彼は連載以外の仕事も精力的にこなしており、複数の出版社から短編集を刊行している。

 それぞれ収録された短編は掲載誌も時期もバラバラで、出来には結構ムラがあるのだが、この本はデビュー作から03年頃までとかなり初期のものを扱う。石黒短編集のなかではもっとも高品質で安定したクオリティの作品を収録している。

 

◆『ススメ サイキック少年団』

 脱力系SFコメディ。本編を読んだ後で見ると二度美味しくなる表紙など、著者らしい「仕込み」が笑いを誘う。 

 

◆『Present for me』

 表題作にして、この本で唯一ギャグ要素のない真面目な話。女の子に一言も喋らせず、ロボットの一人語りのみで進行させながら、まったく説明調になっておらず、むしろストーリー全体を引き締める要素として昇華させているのは流石。 

 

◆『なげなわマン』

 なにこれ。

 

◆『カウントダウン』

 ナンセンスな笑いを散りばめつつ、軽快なテンポで予想外のラストまで読者を引っ張って行く秀作。端々に藤子・F・不二雄のSF短編の面影がある(ちなみに石黒正数ドラえもんの大ファンらしい)。

 相変わらず女の子が可愛い。そしてこの人の描く動物はなにげに可愛い。 

 

◆『バーバラ』

 バーバラの表情がいちいち良い。ストーリー自体は大したことないし、よくある発想といえばそうなんだが、ありふれた素材をきっちり8ページに料理して仕上げてしまうあたりに作者の稀有な資質がよく表れている。 

 

◆『泰造のヘルメット』

 未発表作品。 うん、確かに買った雑誌にいきなりこれが載ってたら俺も戸惑うわ。冒頭4ページが神がかっているぶん、オチがちょっと平凡な印象。 

 

◆『ヒーロー』 

 デビュー作。就職説明会から逃亡して1週間で書きあげ、持ち込んだその日がちょうどアフタヌーン四季賞の締切日だったとのこと。全体的にはコメディタッチながら、閉塞的な現状の中で苦しみ、そこから抜け出したいともがく作者の焦燥感、切迫感が投影されている青春活劇。後半に行くにつれてどんどん絵が荒れていくのだが、そんなことも気にならないほどの強引かつ鮮烈なパワーに溢れた傑作。 

 正直、この本の中でいちばん好きです。そしてヒロインめっさ可愛い。 

 

 この内容で543円は安すぎる。3倍の値でも俺は買うぞ。