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【新作映画レビュー】もうひとりの自分と出会って大江戸温泉物語へ行こう!『あした世界が終わるとしても』感想

 

【2019年:8本目】

 

あした世界が終わるとしても

 

 

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66点

 

 


ひとこと:
セカイ系じゃなかった…?

 

 

 


ポスターだけだと分かりにくいけど、これ実はフルCGアニメなんですよ。
全編、アイドル系アニメのライブシーンみたいにキャラクターがぬるぬる動く。

 

これが最初は結構キツかった。
なんていうのかな、技術レベル自体は高いんだろうけど、日常の風景、つまり学校の教室とか街中をいかにもCGでーすとばかりにキャラにフワフワ動き回られると、観る側としてはすごく違和感があるというか、居心地が悪いというか。ちょっと昔の作品だけど、『プラトニック・チェーン』を思い出しました。

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 ただ、途中からは意外と慣れちゃって、あんまり気にならなくなりまして。ちょうど中盤くらいからバトルシーンとか異世界パートが増えたことでCGとの相性が良くなったというのもあるんだろうけれど、全体を通して見れば、序盤で「やべえ」と危惧したほどには映画の楽しみを損なうことはありませんでしたと言い添えておきます。なので途中で映画館を出てくるとかはやめたほうがいい。

 

 

ざっとお話を説明すると、今われわれがいるこの現代日本パラレルワールドとなる、もう一つの日本というのがありますよ、と。こちらは第二次大戦後、復興することもなく内線続きで荒廃していて、巫女みたいな格好をした王女が圧政を敷いている。この2つの世界にはどちらも同じ容姿の人間が存在しているんだけど、それぞれの生命は相互にリンクしている、つまり片方が死ぬと、もう片方も連動して死んでしまうという設定。

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現代日本の主人公「シン」とヒロイン「コトリ」は、ちょっと良い仲の幼馴染同士なんだけど、あちらの日本の主人公「ジン」は反政府レジスタンスで、ヒロインは王女様「コトコ」、つまり2人は敵同士。ジンはコトコの命を狙ってるんだけど、あちらの世界は警備厳重だからこっちの世界で対応してる人間殺ったほうがラクじゃね?ってことで、コトリを殺すためにこっちの世界にやって来てしまう、しかしコトコもそれに感づいて、ジンを撃退するためのアンドロイド双子をこっちの世界に送り込み…とまあこういうあらすじ。今どきちょっと珍しいくらいにストレートな、中二病セカイ系SFですね。少なくともこの時点では。

 

 

最初に苦言を呈しておくと、この設定そのものが悪いとは別に思わないんだけど、その説明というか語り口が上手くないです、この映画。

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序盤、主人公とヒロインがイチャイチャしてるシーンで唐突に場面が「あちらの日本」に切り替わって、ああこの映画はSFなんだなと分かるわけですが、その切り替わるタイミングのあまりの突飛さ。ちょっと笑うよねこれ。『K』1期第1話のヴァイスマン初登場シーンじゃないんだからさ。

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 そのあといろいろあって、まぁーた変なタイミングで今度は唐突にナレーションが始まる。で、さっき言った設定をクドクド「説明」し出すんだけど……もうちょいスマートにできないもんかね?
しかもこの時点でもうひとりの主人公(ジン)の正体も彼の目的も分かっちゃうもんだから、その後の展開、つまりシンとジンが出会ってからの戦闘シーン、ここはせっかくの序盤の見せ場のはずなのに、「こいつは何者だ?」「何が目的なんだ?」って興味の持続、物語的な推進力を大幅に損なってしまっているわけですよ。百歩譲って、さっきのナレーションで言った世界観説明、あれはジンの口から言わせときゃまだ話の腰を折らなかっただけマシだったろうに、なんでわざわざ取ってつけたような形にしたのか。 

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ちなみにいちいち突っ込みませんが、この映画は序盤のみならず、全編こんな調子です。基本、台詞で説明される。まあSFなんだから説明に時間が費やされるのはある程度仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、後半、向こうの世界からの攻撃を受けてこちらの日本が大変なことになるんですが、その「大変」さもニュースのナレーションとか電話口でばかり「説明」されちゃうのはちょっと脱力。そのわりに細かい描写が雑だったりする。例えば、新宿が大変なことになってて自衛隊全滅とかテロップ出てるのに、同じ頃に渋谷ではスクランブル交差点を大勢の人がふっつーに歩いてるとか、誰かおかしいって突っ込まなかったのかよ!?って。

 

 

ただまあ、ここまでこうやって文句ばかり書いてますけど、実は作画と同じく序盤のツラさを乗り越えると、この映画は結構面白くなってくる。

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まず序盤の一件、すなわち「シンVSジン」≒「ヒロイン殺すのか殺さないのか問題」、いかにも盛り上がりそうに見えて、実はメチャクチャあっさり解決しちゃうんですよ。いきなりハズしてくるわけ。あげく、なんかいつの間にか仲良くなって、殺し屋の双子とかもまじえてデートとか行ってるの、こいつら。ここもまぁツッコミが追いつかない箇所で、いや、いいけどさ…お前の隣でスイーツ食ってるその娘、昨日まで何の罪もない人をバラバラに惨殺してたんだけど、その件に関しては不問なんだ?とか、そのことを一切気にかけない主人公とヒロインのメンタル強すぎとか、後の展開から考えるとここでお前らが呑気に遊んだりしていなければすべて平和裏に解決してたんじゃねえか問題とか、まあいろいろあるんですけど、それもこの際どうでもよくて。

 

 

重要なのは、ここで結構意外な「マジで?」って展開があるんですよ。え、このあとどうすんのこれ?って。
で、ここからは、物語において非常に重要なピースのひとつが完全に欠けたまま、物語はラストまで突き進んでしまう。1箇所だけ申し訳程度に再登場したけど(ついでに言うと、あそこであのキャラが言う理屈もビタイチ飲み込めないんだけど)、それ以外はマジでフェイドアウト

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いやさ、途中でこういう展開になる作品でも、だいたいそのあと何とか理由つけてまた物語に復帰させるのが普通じゃないですか。でも本作はそれをしないんですよ。なので、以降の展開は、どっちかというとバディ感が強くなっていく。主人公✕主人公の、言ってみればホモソーシャル的友情がメインとなる(あと双子の百合)。てっきり普通のセカイ系だと思ってぼーっと眺めていたので、この唐突な路線変更にはびっくりさせられたし、正直、結構ワクワクした。ポスターからも全然そんな雰囲気は感じられなかったので、これは完全に不意打ちでした。

 

 

あとまあ、これは明確に褒めポイントと捉えてもらって良いんですが、戦闘シーンはしっかりしてたし、コスチュームデザインなんかもまあ格好良い&可愛いし、そういうアニメ的な快感、基礎的な部分はちゃんと押さえていたと思います。もうひとつの日本があんな大江戸温泉物語みたいなので良いのかという疑問は沸くにしろ(あの大江戸温泉物語現代日本に移転したりまた消えたりしてたけど、そこに元々あった建物とかどうしたんだろうね)

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あともうひとつ、この映画の大きな美点として指摘しておきたいのは、短さですね。93分しかないの。なので結構コンパクト。登場人物の数が少ないこととか、四の五の言わずにすぐ本題に入るところ、主人公がウジウジ悩んでる時間が比較的少ないところ、あとラスボス戦やそのあとのエピローグをむやみに引き伸ばさず、あっさり切ってるところなんかは良いなと思いました。

 

 

ちなみにあのラストですが、一部で論議を呼んでいるようで。
ネタバレを避けて言うけれど、俺はあのラストシーンは、主人公の視た幻想だと思いますね(`・ω・´)

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だってその前にあちらの世界での◯◯◯のシーンをわざわざ入れたってことは、やっぱりそういうことなんじゃないの?と。主人公はこの物語を通して、この世界で自分が生きる意味と役割を、周囲の誰かでなく自分自身の中に見つけたということなんだから、最後のあのシーンが現実だとすると結局主人公は何も変わってないのでは?って解釈になっちゃいませんかね。だからあのシーンは幻想。
そう考えると、「主人公が世界の本当の姿を知り、その中で自分が果たすべき役割を見つける」という本作の構造は、M・ナイト・シャマランの作品に通じるところがある。本作が『ミスター・ガラス』と同時期に公開されたのは不思議なめぐり合わせを感じる…なんてのはシャマラニストの戯言。

 


あ、そういえば、観終わって思ったけど、タイトル、びっくりするほど合ってないな。
“あした世界が終わるとしても”……何?

 


(2019/2/6鑑賞)