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【新作映画レビュー】密室サスペンスの皮をかぶった青春映画『十二人の死にたい子どもたち』感想(ネタバレなし)

 

【2019年:10本目】

 

十二人の死にたい子どもたち

 

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76点

 

 


ひとこと:
原作よりオススメ。

 

 

 


これねー、宣伝が悪いんよな。
いかにも『SAW』とか『CUBE』みたいな、脱出ゲーム型サスペンスって体(てい)じゃないすか。実際は全然違う。脱出不能じゃないし。普通に出入りしてるし。リアルタイムじゃないし。なんならサスペンスでもないし。推理要素あんまないし。言っときますけど、予告の最後で叫んでる「死にたいから殺さないで!」とか、そんな台詞、本編には一切出てこないからね。

 

 

じゃあなんなのかっつーと、これジャンルとしては明確に青春映画なんですよ。
同じ堤幸彦でも『ケイゾク』や『SPEC』じゃなくて包帯クラブ(2007)に近い。要は重い題材、あるいは飲み込みづらいフィクショナルな設定をコミカルかつテンポよく料理することによって、エンタメとしてギリ成立させるタイプの映画ってこと。

包帯クラブ [DVD]

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 『包帯クラブ』ってのは当時まだハタチ前後の柳楽優弥石原さとみ田中圭貫地谷しほりが共演しているという今見るとけっこう凄い映画なんですが、「心の傷」を塞ぐという名目で街のありとあらゆるところに包帯を巻いてまわるという大変迷惑なお話でして、まあ完全に狂ってる作品といえます(これは堤幸彦というよりは原作の天童荒太のせい)。
ただフォローしておくと、個人的にはなんとなく嫌いになれない、可愛げのある映画でもありまして。なんていうのかな、そういう狂った設定、狂った行動をするキャラクターの奥底にあるピュアな激情、大人になりきれないがゆえの痛々しさ、不器用さみたいなものを、若手キャストたちがきちんと体現していること、さらにシリアスになりすぎず、適度にギャグを挟んでくるコミカルな堤幸彦演出も相まって、なかなか爽やかな青春映画に仕上がっているんですな。狂ってるけど。

 

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というわけで、今作『十二人の死にたい子どもたち』も、どう考えてもリアリティに欠ける、思いっきり人工的なシチュエーション及びルールがあらかじめ設定されており、その制約のなかで「若さ」を描こうとする物語です。断じてミステリではないし、サスペンスでもない。ゆえに、そこを期待して観に行った観客は肩透かしを食らうと思う。このへん、評価が真っ二つに分かれてる所以かもしれません。

 

 

で、はじめに結論から言うと、この映画、そんなに悪くないです。
少なくとも原作よりは面白い。

 

 

原作小説、今回映画を観るにあたって一応読んだんですが、これがまあ、冲方先生どうしちゃったの?って言いたくなるくらい出来が悪いシロモノでして。

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

 

 さっきから繰り返しているとおり、本作は「ミステリ」ではない。一応ミステリ的な謎掛けはあるものの、それはあくまでお話の推進力としての機能しかなく、テーマとは何ら関係ない。でもこの原作は、その謎解き部分にやたらめったら分量を割くわけ。そんなわけで全体的に冗長。特に話が始まるまでがとにかく長い。あげく、種明かし自体は(原作も映画も)しょーもないの。だからガクッときちゃう。
では肝心のテーマ、つまり青春小説としての部分はどうかというと、これはおそらくタイトルとシチュエーションを最初に思いついてしまったがゆえの弊害なんだろうけど、12人のキャラクターの描き分けが全然できてない。まずそもそも12人である必然性が(有名映画のオマージュという意味以上のものが)無いし、そのくせ12人もいるもんだから会話が不必要に長くて、ああでもないこうでもないとくっちゃべってるだけで、事態が先に進まない。おまけにどいつもこいつもいかにも人工的に「作られた」ガキどもでしかなく(会話がとにかく不自然すぎる)、まったく感情移入できない。要するに、人間ドラマ、青春小説としても凡庸、かつ退屈。悪い意味でラノベ的つーか、紋切り型とステレオタイプに彩られた、こう言ってしまってはなんですが、しょうもない作品だったわけです。

 


で、この映画版ですが、原作と比較すると明らかに「お、いいな」って思える部分がけっこう散見されるんですな。

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たとえば、原作からの刈り込みの上手さ。原作小説は本題に入るまでが長いって言いましたけど、この映画版は序盤からさくさくキャラ紹介して、スピーディーに全員が集合して本題に入ってくれるんですよ。あと、各キャラクターが部屋に集まるまでの過程で、それぞれの特徴を台詞ではなく表情や態度で視覚的に描き分けていて、このあたり「なかなかやるじゃん」って思うの。観客が観たいと思ってるもの、つまりあの暗い部屋に12人が集まった光景、それをすぐに観せてくれる。OMOTENASHIとしては合格点。
はやぶさ/HAYABUSA』とか『天空の蜂』もそうだけど、堤幸彦って意外と情報の整理に関しては上手い人だと思うんですよ(『20世紀少年』ですら原作よりは分かりやすくなってたし)。まあ、分かりやすいがゆえに映画とは相性が悪くて、やっぱりテレビ的ってことで敬遠されちゃうという弊害はあるにせよ。

はやぶさ/HAYABUSA

はやぶさ/HAYABUSA

 
天空の蜂

天空の蜂

 

 

 

あと、これは『包帯クラブ』とも通じる点ですが、本作の成功の最大の要因は、比較的コミカルな作風にすることで、原作のもつ不自然さ、作り物臭さをカバーしていることだと思います。

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考えてもみてくださいよ。集団自殺するために廃病院にガキどもが12人も集まる、しかもベッドやら割り振られたナンバープレートやら舞台装置がやたらお膳立てされている」っていうリアリティ0のシチュエーションですよ。脱出サスペンスならともかく、何度も言うように本作は青春映画なんですよ。うら若き少年少女が雁首揃えて「俺たちの生きる意味とは」みたいな青臭い議論するわけですよ。こんなもん真面目くさって変にリアル寄りに撮ったら、それこそ目も当てられないザ・邦画になっちゃうじゃないですか。
そこへいくと、本作の「作り物ですよ~」ってバランスは悪くない。タイトルから「死にたい」とか言わせてるわりに、そんなに暗いムードじゃない。ギャグとか会話の妙でクスッとさせるような場面も多いし、2時間以内に収まる程度にはテンポも良い。まぁ意地悪く言えば、死をリアルなものとして描くことから逃げてると言えなくもないけど、少なくともウェットな愁嘆場なんぞを描かれるよりは遥かにマシである。

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なんとなく「死」は求めてみたけれど、「死」そのものにリアリティを感じることができない「子どもたち」の、当事者でありつつも一歩引いた視点が終始保たれていて、観客も現実に起きている出来事というよりは、「そういう世界の出来事」として寓話的に、「作り物」としてすんなり受け取ることができる。要は、変にシリアスに描かなかったことにより、ギリギリのラインで作品内における「リアル」を保つことに成功しているのです。

 

 

あと、若手役者陣の演技に助けられた部分は相当大きいと思います。彼ら彼女らのフレッシュな演技が観られるだけでも、本作は相応の価値がある。

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12人の子どもたち、半分くらいはほとんど新人みたいなキャスティングらしいですが、キャリアの差を感じさせないくらいに上手かったですねえ。高杉真宙と橋本環奈は最早さすがの貫禄。あと、あのゴスロリの娘。古川琴音ちゃんですか。いいですねえ。あのいっぱいいっぱいな感じ。かわいい。実は『チワワちゃん』にも出てたのね。いやー今後伸びるんじゃないすかこの娘は。わっはっはっは。

 

 

ちなみに、これは一応指摘しておきますが、原作からの改変ポイントで一番ダメだったのは、「投票」するシチュエーションがほぼ失われたことですね。
最初と最後くらいしかやってないし。本家の『12人の怒れる男』あるいは『12人の優しい日本人』は、当初全会一致で決まっていた結論がふとした弾みで意外な方向に転がり始め、賛成や反対が入り乱れていくさまが楽しい映画であって、原作もそこを狙った部分は大きいはずなので、「12人」要素はちゃんと入れて欲しかったなーというのはありますな。

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あ、あとエンドロールのアレはいらねえ。何度も言うけどこれミステリ部分は重要じゃないから。そこ丁寧に説明されても「……はぁ」って感じだし。だったらNG集かメイキングでも入れといたほうが良かったんじゃないかなーって(『イニシエーション・ラブ』の最後は笑ったんだけどな)

 

 

 

そんなわけで、期待するものを間違えなければ、それなりに楽しめる映画だと思います。


手が込んだサスペンスだとか、死について考えさせられるとか、そんなものは望まず、あくまで「作り物」として軽いノリで観にいけばいいんじゃないですかね。

 

 

(2019.2.6鑑賞)